コーデックス規格とは — 世界のアレルギー表示の「共通土台」

公開日: 2026-07-23

世界のアレルギー表示制度は、対象品目のリストがよく似ています。卵・乳・小麦・落花生・甲殻類・魚・木の実といった顔ぶれは、どの国の表でもだいたい共通しています。一方で、日本の「そば」や「いくら」のように、その国だけにある品目もあります。なぜ似ていて、なぜ違うのか。その答えの多くは、各国が共通の土台として参照している国際規格「コーデックス(Codex)」にあります。この記事では、コーデックスのアレルゲン表示規定を公的な一次資料に沿って整理します。日本の制度そのものの詳しい仕組みは食物アレルギー表示制度の基礎知識をご覧ください。

コーデックス委員会とは — 食品規格の国際的な「基準点」

コーデックス委員会(Codex Alimentarius Commission)は、国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)が合同で1963年に設立した、食品の国際規格をつくる政府間機関です。定めた規格の集まりが「コーデックス(食品規格)」で、消費者の健康保護と食品貿易の公正さを目的としています。

重要なのは、これらの規格が加盟国による任意適用を前提とした勧告であり、規格自体に直接の法的拘束力はない点です。FAO も「コーデックス規格は各国の法令に代わるものではない」と明記しています。それでも各国の制度づくりの土台として広く使われているのは、コーデックスが二つの意味で「基準点」になっているからです。

  • 各国が自国のアレルギー表示ルールを整備・改正するときの科学的な参照点になる
  • WTO(世界貿易機関)の「衛生植物検疫措置(SPS)協定」がコーデックスの食品安全規格を参照しており、貿易上の紛争解決にも影響する

つまり、法的拘束力はないのに事実上の共通言語として機能している——これがコーデックスの立ち位置です。

包装食品表示の一般規格(CXS 1-1985)が定めるアレルゲン

アレルゲン表示を定めているのは、「包装食品の表示に関する一般規格(General Standard for the Labelling of Prepackaged Foods, CXS 1-1985)」です。1985年に採択され、その後たびたび改正されてきました。この規格の 4.2.1.4 項は、「食物アレルギーやセリアック病を引き起こすことが知られており、食品に意図的に含まれる場合は常に表示しなければならない」品目を挙げています。2024年改正版では、常時表示の対象(いわば世界共通の中核リスト)は次のとおりです。

区分品目
常に表示(4.2.1.4項)グルテンを含む穀類(小麦・ライ麦・大麦)、甲殻類、卵、魚、落花生、乳、ごま、特定の木の実(アーモンド・カシューナッツ・ヘーゼルナッツ・ペカン・ピスタチオ・くるみ)
濃度規定(4.2.1.7項)亜硫酸塩(食品中に 10 mg/kg 以上で存在する場合)

これに加えて 4.2.1.5 項では、上記以外にも「地域や国のレベルでリスク評価に基づいて表示を求めうる」品目として、そば(buckwheat)、セロリ、えん麦、ルピナス、マスタード、大豆、および特定の木の実(ブラジルナッツ・マカダミア・松の実)が挙げられています。世界共通で必ず求める品目と、各国・地域が判断して足す品目を、規格自体が二層構造で書き分けているわけです。

2024年改正で何が変わったか

CXS 1-1985 のアレルゲン規定は、2024年に改正されました。FAO によれば、この改正は2024年11月の第47回コーデックス委員会総会(CAC47)で採択されたものです。改正は、FAO/WHO 合同のアレルゲンリスク評価に関する専門家会合の成果(規格の脚注が参照する「Risk assessment of food allergens: Part 1」など)を踏まえたもので、規格文書の中に前述の二層のリストが整理されました。

改正前(2010年版。農林水産省の日本語訳で確認できます)の常時表示リストと比べると、変化がはっきり見えます。

  • ごまが常時表示リストに加わった(改正前は明示されていなかった)
  • 大豆が「落花生・大豆」という一括表記から外れ、地域・国レベルで判断する 4.2.1.5 項へ移った
  • 「木の実(tree nuts)」という総称が、6種の具体名(アーモンド・カシューナッツ・ヘーゼルナッツ・ペカン・ピスタチオ・くるみ)に置き換わった
  • えん麦やスペルト小麦など、グルテン関連の記述が整理された

改正の主眼は、疫学的な根拠に基づいて世界共通の中核品目をより明確にしつつ、地域差のある品目を別枠にしたことです(本記事は2024年改正版に基づく、2026年7月時点の内容です)。

日本の制度との関係 — 共通の土台に各国が「足し引き」する

日本の制度は、このコーデックスの土台と照らすと理解しやすくなります。日本の義務表示(特定原材料)である卵・乳・小麦・落花生・えび・かに・くるみ・カシューナッツは、コーデックスの中核リストと大きく重なります。一方で、日本ならではの品目もあります。

  • そば: コーデックスでは「地域・国レベルで求めうる品目」(4.2.1.5項)に buckwheat として挙がっています。日本ではこれを義務表示に位置づけており、そばの喫食習慣という国内事情を反映した「格上げ」といえます。
  • いくら: コーデックスの品目リストには挙がっていません。日本の疫学に基づく、日本固有の追加です。

このように、各国はコーデックスという共通の土台の上に、自国の発症状況や食文化に合わせて品目を足したり格を変えたりしています。リストが似ているのは共通の土台があるから、細部が違うのはその上の各国判断があるから——これが「似ているのに違う」構図の正体です。米国・EU との具体的な違いは各国の制度を扱った記事(EUのアレルギー表示など)や、世界のアレルギー表示制度の比較で扱います。

海外の表示を読むときの実践的な見分け方

海外で買い物や外食をするとき、コーデックスの二層構造を頭の隅に置いておくと、表示の読み方の見当がつきます。

  • どの国でも共通して期待できる中核品目: グルテンを含む穀類、甲殻類、卵、魚、落花生、乳、ごま、主要な木の実、亜硫酸塩(10 mg/kg 以上)。これらは多くの国で表示対象になっている可能性が高い品目です。
  • 国ごとに違いが出やすい品目: そば、大豆、セロリ、マスタード、ルピナス、そして日本のいくらのように国固有の品目。これらは「その国が対象にしているか」を国ごとに確認する必要があります。

ただし、これはあくまで「土台」の話です。実際にどの品目がどう表示されるかは国の法令と各事業者の運用によって決まり、コーデックスの規格がそのまま各国で義務になっているわけではありません。とくに外食は、多くの国で容器包装食品ほど厳密な表示義務の対象になっていないことがあります(日本の状況は外食にアレルギー表示義務はない?を参照)。最終的には現物の表示と、必要に応じて製造者・店舗への確認が安全側の行動です。個々の食べられる・食べられないの判断は、必ず主治医にご相談ください。

外食チェーンがどんなアレルゲン情報を公開しているかは、チェーン検索から調べられます。

参考資料

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、医療上の助言ではありません。掲載内容の正確性には努めていますが、制度や各社の公開情報は変更されることがあります。飲食の前には必ず店舗・運営会社の最新の公式情報をご確認ください。

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